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  • 2013/10/4

上海便り①  ~中国の民事裁判制度~

 中国・上海の法律事務所にて研修中の筆者が、中国の法制度、実務の動向などを、不定期にコラム形式で紹介します。初回の今回は、中国の民事裁判制度について、簡単に紹介したいと思います。

 中国の裁判所(=人民法院)は、北京にある「最高人民法院」と、地方レベルの「高級人民法院」、「中級人民法院」、「基層人民法院」の4階層に分かれています(その他に軍事法院等の特別人民法院もあります。)。

 この点は、日本の裁判所が、最高裁判所(東京)と、各地にある高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所の4階層に分かれているのと似ていますが、中国では、日本(三審制)とは異なり、二審制が採用されています。従って、例えば第一審が基層人民法院であれば中級人民法院が、第一審が中級人民法院であれば高級人民法院が、それぞれ第二審(最終審)としての審理を行うことになります(なお、例外的に最高人民法院が第一審かつ最終審とされる場合もあります。)。

 また、どの階層の人民法院が第一審を管轄するのかについては、事件の性質や規模等によって決まり、その基準も地域ごとに異なるのですが、例えば、上海での外国企業が関係する一般の民事訴訟の場合、訴額が2000万元(3.2億円程度)未満であれば基層人民法院、2000万元以上であれば中級人民法院、1億元(16億円程度)以上であれば高級人民法院が、第一審裁判所となります。

 

 ところで、中国では、上記のとおり二審制が採用されていることに加え、一般の国内民事訴訟の場合、原則として第一審は6か月以内、第二審は3か月以内に結審しなければならないとされるなど(但し、渉外事件にはこのような期間制限はありません。)、民事訴訟の確定判決までに要する期間は、日本と比較しても短く設計されています。

 もっとも、ここで留意が必要なのは、中国では以上のように確定判決までの期間が比較的短期であるといえる一方で、民事訴訟における裁判の“やり直し”、すなわち「再審」が日本より頻繁に利用されているという点です。

 日本でも、民事訴訟法上「再審」制度は設けられていますが、再審事由が極めて限定されているため、実際の利用件数は大変少ない状況にあります。一方中国では、「判決を覆すに足りる新たな証拠があったとき」や「原判決の法令適用に明らかな誤りがあるとき」など、日本では再審事由とされていない事由が広く再審事由とされているため、実務上も相当数の再審の申立てが行われています(ちなみに中国では、上級の人民法院自身が下級の人民法院の確定判決について自ら再審を行うことができるとされているなど、上級人民法院による下級人民法院の裁判監督権限が強く、制度全体を通じて、日本の再審とは異なる特徴を有しています。)。

 

 ところで、このように中国において再審が日本より頻繁に利用されている理由については、実は「判決の質」の問題が大いに関係しているとの指摘もあります。

 すなわち、中国の、特に地方部では、未だに裁判における「地元保護主義」の弊害が指摘されることがあり、確定判決が必ずしも公平な内容ではない場合があるようです。また、裁判官に関しても、中国では1995年に任官のための資格試験が導入され、更に2002年には、弁護士と同様、全国統一司法試験に合格しなければ裁判官になることができなくなりましたが、それ以前は、特に法的素養がない人員(例えば人民解放軍の退役軍人など)が裁判官に任官することも珍しくなく、そのような時期に任官した裁判官が現在も存在するため、判決の質が必ずしも一定していないといった事情もあるようです。外国企業が中国企業と契約する際に、法的紛争が生じた際の解決方法として、裁判ではなく仲裁を選択することが多いのも、以上のような実情が考慮されるためです。

 

 以上のとおり、中国では、裁判自体は日本より迅速に進み確定判決を得られるものの、判決内容如何によっては、再審による判決変更の可能性も相当程度残るため、確定判決の法的安定性は盤石とはいえません。従って、例えば日本企業が、何らかの事情により中国において不利益な判決を受けてしまった場合でも、判決内容を精査し、諦めずに再審の道を探ることが重要であると言えるように思います。

 

2013年9月30日  弁護士 里見 剛

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