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  • 2020/9/8

【判例紹介】被用者から使用者への「逆求償」を認めた判例~最高裁判所第二小法廷令和2年2月28日判決~

被用者から使用者への「逆求償」を認めた判例
~最高裁判所第二小法廷令和2年2月28日判決~

被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加えた場合、
① 使用者が当該損害を賠償したときには、法律上認められている使用者から被用者に対する求償権の行使(民法第715条第3項。以下「順求償」という。)が、信義則上制限され得るという判例(最高裁判所第一小法廷昭和51年7月8日判決)がありましたが、
② 被用者が当該損害を賠償したときに、被用者から使用者に対する求償権の行使(以下「逆求償」という。)が認められるかについては、従前、最高裁判所の判例がありませんでした。
本判例は、②の点に関し、被用者から使用者への逆求償を認める旨の判断を示した新判例であり、それ自体重要な判断であることから(なお、原審の大阪高等裁判所平成30年4月27日判決は逆求償を否定していました。)、ここで紹介したいと思います。

 

① 使用者(Y):貨物運送を業とする資本金300億円以上の株式会社。
② 被用者(X):Yに雇用され、トラック運転手としてYの運送業務に従事。
③ Xは、Yの業務としてトラックを運転中、Aを死亡させる交通事故を発生させた。なお、YはAの治療費合計47万円余りを支払った。
④ Aの相続人はC1及びC2の2名。
⑤ C2がYに対し損害賠償請求訴訟を提起。最終的にYがC2に対し1300万円の和解金を支払った。
⑥ C1がXに対し損害賠償請求訴訟を提起。控訴審にてXはC1に対し1383万円余り及び遅延損害金の支払いを命じる判決。Xは、同判決に従い、C1のために1552万円余りを有効に弁済供託した。
⑦ XがYに対し、⑥の支払(弁済供託)金について逆求償を求める訴訟を提起。YがXに対し、⑤(及び③)の支払金について順求償を求める反訴を提起。

【訴訟の経緯】
 《第一審》
 「使用者責任を負う使用者には、被用者との関係において、報償責任及び危険責任の原理から、実質的な使用者の負担部分の存在を認めることができるというべきである。そうすると、被用者が、このような使用者の負担部分についてまで賠償義務を履行した場合には、使用者に対し求償することができることとなる。なお、不法行為責任を負う被用者に対し、被害者が損害賠償請求することを権利濫用等により制限することは困難であると想定されることからすれば、被用者から使用者への逆求償を認めないと、被害者が使用者に対し請求するか、被用者に対し請求するかの偶然の要素により、使用者と被用者との間の損害の公平な分担が阻害されることになり相当ではないというべきである。」としてXのYに対する逆求償を認めた上で、「被用者から使用者に対する逆求償をする場合の使用者の負担部分の範囲は、使用者の被用者に対する求償の範囲を信義則に基づき制限する場合に考慮すべき要素と同様の要素を考慮して定めるのが相当である。」と述べ、結論として「損害の公平な分担という見地からは、本件事故により生じた損害については、被用者である原告がその25%を、使用者である被告がその75%を負担するとするのが相当である。」としてXのYに対する本訴請求(逆求償)を一部認容し、YのXに対する反訴請求(順求償)を全部棄却した。

 《控訴審》
 逆求償を否定すると、被害者が損害賠償請求の相手方として使用者と被用者のいずれを選択するかによって、使用者と被用者の最終的な負担割合が異なることになるなどの点を指摘し、「逆求償を認める考えもあり得るし、そのことが当事者の公平にかなうとの考えもあり得るところである。」と述べつつも、「民法715条1項は、被害者保護のための規定であって、本来、不法行為者である被用者が被害者に対して全額損害賠償債務を負うべきところ、被害者が資力の乏しいこともある被用者から損害賠償金を回収できない危険に備えて、報償責任や危険責任を根拠にして、使用者にその危険回避の負担を負わせたものであって、本来の損害賠償義務を負うのは、被用者であることが前提とされている。」とし、「使用者には、本来の損害賠償義務者である被用者に対する求償権を有するものの、信義則上、使用者から被用者に対する権利の行使が制限されることがあると解される」にとどまる以上、「民法715条3項の求償権が制限される場合と同じ理由をもって、逆求償という権利が発生する根拠とまですることは困難である。結果が公平に見えることがあるだけでは、理由とはならない。」と述べ、XからYに対する本訴請求(逆求償)を一部認容した第一審判決を取り消して本訴請求を棄却し、他方で、YのXに対する反訴請求(順求償)についても「信義則上求償権の行使を制限されると解すべき」として棄却した。
 なお、控訴審判決は「使用者が被用者と共に民法709条の責任を負い、被用者と共同不法行為にある場合には、共同不法行為者間の求償として、これが認められることは別論といえる。」として、逆求償の場面と共同不法行為者間の求償の場面とを区別して論じている(結論としてはYの共同不法行為を否定)。

【本判決の概要】
 「民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである・・・このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきところ・・・使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである。」と述べて逆求償を認め、原審中、逆求償を否定してXの本訴請求を棄却した部分を破棄して(逆求償)、同部分について原審に差し戻した。

【コメント】
 本判決は、使用者責任の趣旨から、使用者は、被用者との関係においても損害を公平に分担すべきであり、順求償と逆求償とで使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でないとして、逆求償を肯定した上で、逆求償の範囲についても順求償の場合と同様の事情に照らし損害の公平な分担という見地から判断すべきとしています。
 順求償の場合との結論の齟齬を回避することは重要な命題であり、その意味で本判例が逆求償を肯定し、逆求償の範囲についても順求償の場合と同様の考慮事情によるとした点は適切な判断であるように思われます。
 今後は、逆求償の範囲を決する際の各考慮事情に関し、重要性において軽重があるのかといった点や、控訴審判決が言及しているように、使用者が被用者から逆求償を受けるに過ぎない場面と、使用者が被用者との共同不法行為責任まで負う場面とをどのように区別するのかといった点などについて、議論が発展していくものと思われます。
 なお、前者の点については、本判決の補足意見が、本件においてまず重視すべきものは、X及びY各自の属性と双方の関係性(自然人vs大規模上場会社)である旨指摘し、通常のの事故に関しては被用者の負担すべき部分は僅少となることが多く、零とすべき場合もあり得ると指摘している点や、Yが任意保険に加入せず自家保険政策(賠償金の支払いが必要になった都度、自己資金によってこれを賄う政策)を採用していたことを、Yに損害を負担させる方向の事情として指摘している点などが、参考になるように思われます。

《弁護士 里見 剛》

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