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  • 2019/6/24

【ニュース】固定残業代について

 1 固定残業代とは

 時間外労働が恒常化している会社において、労働者に対し、労働基準法(以下、「労基法」といいます。)第37条の割増賃金計算方法によらず、予め定めた一定の金銭を支払うケースが増えています。

 このように、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことを、一般に「固定残業代」といい、主に、基本給の中に割増賃金を組み込んで支給する場合(組込型。例:「基本給30万円の中に10時間分の残業代として2万5000円が含まれている。」)と、割増賃金の支払に代えて一定額の手当を支給する場合(手当型。例:「基本給25万円+定額残業手当5万円」)があります。

 

 2 固定残業代の要件・効果

 (1)要件

 固定残業代の有効性については、個々の裁判例によって判断方法が異なっており、裁判所による取扱いが確立しているわけではありません。

 もっとも、組込型に関する代表的な判決を分析すると、支払われている賃金のうち、どの部分が割増賃金部分で、どの部分がそれ以外の通常の賃金部分なのかを判別できること(明確区分性)を要件とするのが、最高裁の考え方であることがわかります。

  ≪例≫

   ①小里機材事件(最一小判昭63.7.14労判523号6頁)

→会社が、労働者を雇用するに際し、基本給16万5000円に月15時間の割増分を含む旨の合意をしたと主張した事案につき、「仮に、月15時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができる」と判示した第1審判決を最高裁が是認(結論:否定)。

   ②テックジャパン事件(最一小判平24.3.8労判1060号5頁)

→基本給41万円、月間総労働時間が180時間を超えた時間につき1時間当たり一定額を別途支払い、月間総労働時間が140時間に満たない時間につき1時間当たり一定額を減額する旨の雇用契約を締結していた事案につき、「41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない」と判示(結論:否定)。

   ③医療法人社団康心会事件(最二小判平30.7.19労判1168号49頁)

→年俸1700万円の医師との間で、時間外労働割増賃金が年俸に含まれるとの合意をしていた事案につき、「割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、」「労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり、割増賃金部分が労基法第37条等で定められた方法により算定した割増賃金額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負う。」と判示(結論:否定)。

 また、手当型に関する初めての最高裁判決である日本ケミカル事件(最一小判平30.7.19労判1186号5頁)は、契約書に「月額562,500円(残業手当含む)」「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」、採用条件確認書に「月額給与461,500円」「業務手当101,000円 みなし時間外手当」「時間外勤務手当の取り扱い 年収に見込み残業代を含む」「時間外手当は、みなし残業時間を越えた場合はこの限りではない」等の記載があり、実際の時間外労働としては、15ヶ月間のうち、30時間以上が3回、20時間台が10回、20時間未満が2回、差額精算もなされていたという事案につき、「雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して」、当該手当が時間外労働等の対価と認められるか否か(対価性)により、固定残業代としての有効性を判断すべきとしています(結論:肯定)。

 以上によると、固定残業代制を導入する際には、それが組込型か手当型かに関わらず、上記明確区分性及び対価性の両方を充足させるよう意識することが安全といえます。

 

 (2)効果

 固定残業代が割増賃金の支払として認められた場合、その分、割増賃金は支払済みとなり、割増賃金算定の基礎賃金からも除外されます。

 一方、固定残業代が割増賃金の支払として認められない場合、割増賃金は未払となり、割増賃金算定の基礎賃金に算入されます。また、訴訟を提起された場合、高確率で付加金100%の支払が命じられます。

 なお、固定残業代が有効な場合であっても、労基法第37条の計算方法による割増賃金の額が当該固定残業代の額を上回るときは、差額分を別途支払う必要がありますので、この点もご注意ください。  

 

 3 まとめ

 以上、固定残業代について簡単にご説明させていただきましたが、「新たに固定残業代制を導入しようと思うが、雇用契約書や賃金規程にどのような記載をしたらよいのかわからない」「自社の固定残業代が有効なのかわからない」等とお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

 なお、固定残業代に関する求人広告の記載方法については、厚生労働省の指針が参考になります。

   

                                 ≪弁護士 青野 瑞穂≫

                                        以上

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